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氷の服従

スラヴスカヤは医師として働いていた。

当時女性では珍しく、そして最新の分野であった精神科を志していた。

33歳の時、モスクワから鉄道と車を使ってカラ海の沿岸へ向かった。

明けない冬を目の前にして、クリニックに辞表を出し、アパートを解約した。

いままでの生活を大きく変える重大な決断をしたのは、特別な初診の”患者”が待っているからだった。

雪と氷で薄暗く凍える港湾工業地帯を抜け、灰色の重たい空の下を音もなく進む。

ドアを開けた木造の旧兵舎はかすかに暖かで静かだった。

窓枠のそばの椅子に座る。

窓の外を見ようと振り返る。髪が流線形を作り、唇に張り付く。

そこに椅子は一つしかない。